【Guest Essay】On Being OriginalーHiroaki Goto, First Violinist, Brno Philharmonic (Filharmonie Brno), Ph.D., Janáček Academy of Music and Performing Arts, Czech Republic
ブルノで共演させていただいた後、今回のプログラムノートの解説執筆のお話をいただいたとき、正直なところ「こりゃ参ったな」と思いました。
ドヴォルザーク、ベルリオーズ、ガーシュウィン。
どうやって、このクセの強い三曲、三人の作曲家の話を一本の線でつなげようか。
PEOの皆さんが時差ぼけに苦しんでいる間、僕は僕で、三日三晩そのことを考えていました。
そして、あるときふっと降ってきた言葉が、
「オリジナルであるということ」
でした。
考えてみれば、この三人は、ある意味でとても「ボヘミアン」な人たちです。
ドヴォルザークは、ボヘミアの音楽家として出発しながら、モラヴィアの民謡に耳を澄まし、ブラームスやドイツ音楽からも学び、やがて海を渡ってアメリカへ向かいました。
ベルリオーズはフランス人でありながら、ベートーヴェンに憧れ、パリの音楽教育の中で学び、ヨーロッパ各地の音楽や文学から刺激を受けながら、それまでの「交響曲」という概念そのものを自分の手で広げていきました。
そしてガーシュウィンは、ニューヨークのジャズやポピュラー音楽の世界から出発しながら、クラシック音楽を学ぼうとヨーロッパへ目を向け、ラヴェルやナディア・ブーランジェに師事することまで考えました。
つまり、「自分らしい音楽」というものは、最初からどこかに完成した形で存在しているわけではない。
いろいろな音楽に出会い、誰かに憧れ、誰かから学び、ときには自分とはまったく違う文化の中に身を置く。
そうして世界を渡り歩いた先で、最後に残るもの。
それが、その人にしか歌えない「歌」なのではないでしょうか。
だから僕は、この三曲を聴くとき、ひとつお願いしたいことがあります。
薩摩君、3曲の中にあるのは、ボヘミアでも、パリでも、モラヴィアでも、ニューヨークでもない。
「中間部の歌を聴きなさい」
ということです。
ドヴォルザーク《謝肉祭》。
華やかに疾走する音楽の真ん中で、ふっと現れるフルートの歌があります。
僕には、あそこにこそドヴォルザークがいるように思えます。
「チェコらしさ」という言葉で説明するよりも前に、彼自身が歌っている。
ベルリオーズ《幻想交響曲》の第3楽章。
狂気や幻想が渦巻くこの作品の中で、突然、羊飼いの素朴な呼びかけが聞こえてきます。
そこには、それまでの劇的なベルリオーズとはまったく違う、静かで純粋な時間がある。
僕には、あれこそが彼自身の心であり、彼のアイデンティティのように感じられます。
そしてガーシュウィン《ラプソディ・イン・ブルー》。
ジャズなのか、クラシックなのか。
そんな境界を軽々と飛び越えてしまう作品ですが、やはり僕が聴きたいのは、あの中間部に現れるカンタービレです。
華やかなリズムでも、技巧的なパッセージでもない。
ただ、歌う。
そこにこそ、ガーシュウィンにしか書けない音楽がある。
三人とも、たくさんのものを外から受け取りました。
けれど、最後に音楽として残したものは、誰かのコピーではありません。
自分自身の歌です。
だから「オリジナルである」ということは、誰からも影響を受けないことではないのだと思います。
むしろ、たくさんのものに出会い、たくさんのものを吸収し、それでも最後には「自分の声」として歌えること。
それが、この三人が僕たちに残してくれた大切なメッセージなのではないでしょうか。
そして今、ブルノで音楽を学び、演奏し、そこから日本へ向かおうとしている若い指揮者がいます。
薩摩君。
この三曲を振るということは、三人の作曲家の音楽を「再現する」だけではありません。
ドヴォルザークの歌を聴き、ベルリオーズの歌を聴き、ガーシュウィンの歌を聴く。
そして、その先で、あなた自身の歌を探してほしい。
それが、この三曲をブルノで一緒に演奏する僕から、若い指揮者への、ちょっとしたメッセージです。
フィルハーモニックアンサンブル管弦楽団 第80回演奏会[第3回チェコ演奏会 帰京公演]
日時: 2026年11月15日(日)14:00開演(13:15開場)
会場: すみだトリフォニーホール 大ホール
指揮・ピアノ: 薩摩研斗
コンサートマスター: 永峰高志
管弦楽: フィルハーモニックアンサンブル管弦楽団
【プログラム】
ドヴォルザーク/序曲《謝肉祭》作品92
ガーシュイン/《ラプソディー・イン・ブルー》
ベルリオーズ/《幻想交響曲》作品14
チケット好評発売中!
公演詳細・チケット購入はこちら
https://peo.jp/concerts/80concert/
後藤博亮(ごとう ひろあき)
広島県福山市出身。チェコ共和国在住。チェコ国立ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団 第一ヴァイオリン奏者。
武蔵野音楽大学を総代首席で卒業後、第81回読売新人演奏会に出演。渡欧しプラハ芸術アカデミーを経て、チェコ国立ヤナーチェク音楽芸術大学大学院に進学。2015年に修士課程を修了後、同大学博士課程に進み、2024年に音楽分野における博士号を取得。
2016年、ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団のオーディションに合格。試用期間を経て2017年より第一ヴァイオリン奏者として正式に入団。オーケストラ奏者としての活動に加え、ソリストとして同団やスロヴァキア国立オーケストラと共演するなど幅広く活躍している。
リサイタルは毎年開催し、アントニン・ドヴォジャークやレオシュ・ヤナーチェクをはじめとするチェコ作品を中心に、日本とチェコの両国で演奏活動を展開。これまでにウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の奏者や、ペテル・ミハリツァ、パヴェル・フーラら著名音楽家と共演するなど、国際的な研鑽を積んでいる。
また、室内楽の分野でも精力的に活動し、2021年にはスロヴァキアの作曲家ヤーン・ツィケルの作品による室内楽アルバムに参加し高い評価を獲得。同年、ブルノ・フィルメンバーによる弦楽トリオとしてチェコ国営放送よりCDをリリースしている。
故郷・福山においては、2013年に弦楽合奏団「ふくやま弦楽隊」を結成、さらに2018年には「ジャパン・アンサンブルアカデミー・ソロイスツ」を設立し、ソロ・コンサートマスターを務めるなど、地域に根ざした音楽文化の振興にも尽力している。福山国際音楽祭への出演など、日本国内での活動も継続的に行っている。
近年は「京都音楽博覧会」やNHK「Tiny Desk Concerts JAPAN」への出演など、クラシックの枠を越えた活動にも積極的に取り組む。
さらに、チェコで音楽の博士号を取得した知見を背景に、日本とチェコをつなぐ文化的発信にも力を入れており、SNS(X/旧Twitter)では音楽のみならずチェコの野球や生活文化についても発信。両国の架け橋として多方面から注目を集めている。



No responses yet